【誰でも使える家庭医療の考え方】〜BPS〜【勤務医の解説】

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勤務医夫の勉強記録
この記事は約9分で読めます。

こんばんわ。

masaです。
今日は自分の勉強メモ、ただ、単なる疾患の話ではなく、家庭医が使う技法のお話しをしていきます。研修医を始めとする医師の皆さん、こんな事を感じる場面がありませんか?

 

患者さんの病気に関しては介入方法が分かっているのに、社会的要素に問題があって。

とか

あの患者さん、性格が悪くていつも文句ばっかり行ってくるんです。。。

とか。

あるあるですよね。大丈夫、masaも思う所あります。

医学的には正しい診断が出来て、正しい治療が出来ているはずなのに上手くいかない。

そんな時は視点を変えてみると上手くいくことがあります。大学の授業で中心だった、疾患=Diseaseとしてのアプローチではなく、その疾患を持った患者さんというシステム全体(厳密には少し違いますが)へのアプローチを考える方法です。

何ていっているのか分からないかも知れませんが、大丈夫です。このあと解説していきます。今日の記事はこのように、【医学的には正しいアプローチをしているはずなのに何故か患者のケアが上手く行かない時】に取れる方法を一つ紹介します。

その名も【BPSモデル】です。

いくら医学が発展して言ってもみんなちっぽけな人間でしかありません。ドクターの皆さん。少しでも手の中の手札を増やしておきましょう

では始めに、本日のまとめです。

「今日話す事」
・BPSモデルについて

「見て欲しい人」
・家庭医療を勉強始めたばかりの人
・家庭医療にまるで興味がない人

「結論」
・Bio−Psycho-Socialに分かれて患者さんを分析する
・疾患を見るのではなく、患者を大きなシステムの一部と捉える
・レバレッジポイントを探し出しアプローチをする
ではここから本題に入りましょう。
*注意事項:本記事を読む前に目を通して下さい*
このページはあくまでmasaの勉強用の記録です。実臨床に用いる場合は自己責任でお願いします。記事作成中の情報ですのでご自身で最新の情報を確認した上でお願いします。
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BPSモデルとは

BPSモデルとは、1980年にJorge Engelが提唱した古くからある考え方で、患者の考えやトラブルに対し、Bio/Psycho/Socialの分野に分類して考えるモデルです。

 

定義は次のようになります。
<定義>
互いに作用し合う多数の要素で構成されるシステム(Bio/Psycho/Social)を臨床に当てはめたもの。
協調していますが、特に互いに作用しあう、という点がポイントです。ただ1人の患者で、それぞれの面のプロブレムを抜き出せば終わり、という考え方ではありません。それぞれがどのように作用し合っているかを考えることに意味がある考え方です。

 

また、次の様に表現されているテキストもあります。

患者の体内に起こっている病的変化を対人関係・家族/社会も含めたシステムの中の一つとして捉え、全体のシステムに対しアプローチ為ていくこと
このシステムの中の一つ、という考え方、最初はよく分かりませんよね?

大丈夫、masaもでした。

 

よく用いられる図ですが、下のように考えるとわかりやすいですね。

<EngelのBPSモデル>

【生物的個人】だけを見るのでは無く、【全人的個人】、すこし枠を拡げた視点で患者を見つめるという事です。

全人的個人
=社会的個人+実存的個人+生物的個人
特に、先に述べた様に患者さんの診療で行き詰まった時は、最後の生物的個人だけに注目してしまっていることが多くあります。そうではなく、もっと社会的な立場もひっくるめた個人としてみなさい!という考え方のモデルですね。
ややこしく言ってきましたが、一言で言ってしまえば

 

複雑な個人を丸ごとみる!

ということです。

BPSモデルを使う上で大事なこと

先ほども言いましたが、Bio-Psycho-Socailのそれぞれの項目を抜き出して終わり、ではなく、それぞれの項目がお互いにどのような作用をもたらしているのか、分析することがまずは大事です。
そのためには、情報収集して図にかきだし、相互作用を矢印で書き表すのがおすすめですね。
次の図はmasaが実際に臨床で使った時のBPSモデルの図です。

ただ、これだけだと相互作用は分かりづらいですよね。

実際に患者さんへの介入方法を考えながら書き殴ったBPSモデルはこちらです。
字が汚いのはご了承ください。別に他の人に見せる必要もなく、カルテに書く必要も無いんです。自分が患者さんと向き合う時に、この患者さんに何が出来るかを考える時にこのモデルを使う事が出来れば良いので、雑に書いても問題ありません(言い訳です)。
すこし見づらいのですが、【Social】の日中独居の所から【Bio】の飲水・塩分制限困難→心不全増悪や【Psycho】の生きがいの喪失・今後への不安・抑うつへとつながるなど、一つの項目から複数の因子への影響を目で見ることが出来ます。
この様にどうしても矢印での記入を臨機応変に行うためにも、PCでまとめるよりは手書きでまとめる方がおすすめです。

実践編! BPSの使い方

ロチェスター大学のグループの提案(2003)ではBPSモデルの使い方について、以下の様にまとめられています。
1.患者の物語と生活環境を聴取
2.生物・心理・社会の領域を統合
3.ケアを提供において、関係性が中心になることを認識
4.自分自身を知る
5.どの臨床モデルに焦点を当てるか考える
6.多面的な治療を提供する

今日は上から3つに絞って解説していきます。

①患者の物語と生活環境を聴く

まずは何においても情報収集ですね。患者さんの疾患に由来する病い体験を聞き、患者の言葉から患者の生活をとりまく状況を明らかにすることが重要です。そうしないと次の項目でまとめることが出来ませんからね。
ここでいう患者の言葉、とは個人的なIllnessを患者の自然な言葉で語られるものです。とはいえ、患者から語られる言葉は医師ー患者関係の影響を受けるので、詳しい病い体験を聞くことが出来るかは良好な医師患者関係を築けるかどうかにかかっています。

②生物・心理・社会の領域を統合して考える

さっきの落書きのような図にする、って事ですね。とはいえ、どのように分類したら分からないこともあると思います。読んだテキストからわかりやすい図があったので持ってきました。
自分の書きだしたプロブレムが一体1.生物学的側面 2.心理的側面 3.社会的側面 のどこにあたるのか。ひとつ一つ考えた上で、図に書きだしてみます。
その後、それぞれがどのように良い影響/悪影響を及ぼし合っているのかを矢印で、出来るだけ詳しく記入していきましょう。

③ケースのどこに焦点を当てるか? (各種関係の重要性を確認)

この項目が一番重要といっていいと思います。ケースのどこに焦点を当て、どこにアプローチをするかを考えます。
出来る限り色んな所に影響を与えている項目が良いですね。その一つに介入できれば、全体が上手く行くような項目があるとよりベターです。

 

上の落書きで考えれば、先ほどのケースでは、例に挙げた【日中独居】という所に、【訪問ヘルパー/看護師導入】というアプローチをすることで食事の管理も行うことが出来ると共に人と話す時間が得られることで不安も解消されていきました。

この様に一つの項目に介入すると一気に全体が良くなるポイントをレバレッジポイントと言います。てこの原理と同じ考え方ですね。このレバレッジポイントを如何に探し出すかが重要です。

また、焦点を当てる所が複数ある場合は「重要性」「緊急性」「実行可能性」などを検討して優先順位をつけることも大事ですね。いくら重要でも介入するのにかなり時間がかかる場合は、実行可能性の高いものから順番にアプローチした方が上手く行くこともあります。

+α ④診察する医師自身もシステムに入っていると認識すること

今回は簡単に触れますが、他でもない医療者自身もこの患者さんのシステムの一部になっている、という考えも重要です。どうしても知らないうちに医者自身の価値観や判断基準・偏り、好き嫌い、性格タイプ、果ては体調などが患者の診療・判断に影響を与えることがあると言われています。後半はともかく、価値観や判断基準などは良く言われることですね。患者家族によっては「先生に任せます」なんて言葉も使われたりしますから、どうしても担当医による違い・色は出てきてしまいます。

BPSモデルのもたらす効果

実際に使ってみると分かりますが、BPSを使うと次の様な効果がもたらされます。
自分の心を落ち着けることが出来る。結果的に人や状況を責めない、自分を責めないアプローチを行うことが出来る
自分の視野を広げ俯瞰的にみることができる
患者の問題を他の人と共有し、解決の糸口を探ることが出来る
いずれも客観的に患者さんを人として診療していくのにとても重要な効果です。是非、皆さんも患者さんの診療に行き詰まった時、BPSモデルを利用してみてくださいね。

BPSを勉強するのに参考にしたテキスト

今回masaがBPSモデルを勉強するのに参考にしたテキストはこちら。研修医の方は参考にしてみてください。
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家庭医療の全般の入門にはおすすめ。入門書とはいえ、かなり広い内容が詳しく書かれており、読み応え十分です。
こちらはより実践編の内容になります。ただ雑誌という形で読みやすく、値段もお手頃なのでおすすめです。かなりスムーズにmasaも読む事ができました。
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病院に特化した(というよりは病院でも家庭医療の技法はいかせるよ!)という本はこちら。こちらも読みやすく、家庭医療の事が広くまとめられています。
いずれも読みやすい本なので、今回のmasaの記事で興味を持たれた方はのぞいてみてください。

後書き

いかがでしたでしょうか。
今日は今までと違って、疾患ではなく家庭医療の【技法】という着眼点で、ブログの記事にしてみました。皆さんも是非、目の前の患者さんが上手く行かないときは憤る前に、BPSモデルを使ってまとめて見て下さい。
では最後にもういちど、本日のまとめです。
「今日話した事」
・BPSモデルについて
「見て欲しい人」
・家庭医療を勉強始めたばかりの人
・家庭医療にまるで興味がない人
「結論」
・Bio−Psycho-Socialに分かれて患者さんを分析する
・疾患を見るのではなく、患者を大きなシステムの一部と捉える
・レバレッジポイントを探し出しアプローチをする
以上になります。今後とも【家庭医療】についての考え方も自己学習の念も込めてまとめていこうと思います。興味があれば是非見ていって下さい。

 

ではまた次回の更新で。

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