【内科勤務医の勉強記録】意外と身近にいるかもしれない感染性心内膜炎【infective endocarditis】

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勤務医夫の勉強記録
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*注意事項:本記事を読む前に目を通して下さい*
このページはあくまでmasaの勉強用の記録です。実臨床に用いる場合は自己責任でお願いします。記事作成中の情報ですのでご自身で最新の情報を確認した上でお願いします。
最近感染性心内膜炎と出会う機会が多いため、自分の備忘録のためにまとめ。
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感染性心内膜炎の概論

【患者が歩いて一般外来にくる病気】
 → 発熱なくけろっと歩いてくることにも注意が必要治療出来ないと致死的な疾患ではあるが、みんなが救急外来にくるわけではない。
【最初の主訴がIEを想起しにくい】
 → 発熱・倦怠感・食思不振・体重減少など、ポイントが絞れない漠然とした症状で来院。当然心臓外科を最初に受診することはまずなく、内科やリウマチ科などを受診。
【病歴で有用なのはIEの既往歴】
 → 他には皮膚バリアの破綻をチェック
  (アトピー性皮膚炎・透析・カテーテル挿入中など:S.aureusの曝露が多いとより注意が必要
☆歯科治療歴は、質問はするが抜歯と歯磨きのリスクはそこまで変わらない!

感染性心内膜炎の診察

【全身状態・意識状態は良いことが多い】
 → 外来にすたすた歩いてくることも。そのため足下を掬われることが多い
【手と目は必ずチェック!】
 目:眼瞼の点状出血や結膜の充血/出血もチェック(下記はUp To Dateより)
*Janeway lesion:無痛性 → 出血
 → ただ末梢塞栓症状はないことが多い(感度10%/特異度90%
☆そもそも感染性心内膜炎では、熱以外の感度は高くない!!☆
*Osler 結節:有痛性 → 免疫複合的反応
→ 国試的には間違えやすい2つだが、後に出る修正Dukeなどの診断基準ではそれぞれ別項目になるのに注意
☆進行すると合併症が多発!☆
腎梗塞・脾梗塞を合併
 → 側腹部痛 or 背部痛も起こる
椎間板・椎体炎に波及
 → 頸部痛・背部痛・腰痛も起こる/項部硬直が出る事も
脳に飛べば脳梗塞
 → 麻痺患者の発熱ではIEを考えるのが大事
弁輪周囲の膿瘍が房室伝導路へ波及
 → 心房細動or房室ブロックになることも!
それを考えると感染性心内膜炎、症状はもはやなんでもあり!

感染性心内膜炎の検査

☆何を差し置いてもとにかく血液培養を!
 → 持続菌血症の証明のため、少なくとも3セット(最初と最後に1時間は時間をあける)

 

☆エコーも必ずされるべき
 → 特にTTE(経胸壁心臓超音波検査)は疣贅の感度が60%程度なので、除外したいなら(仕切れないが)TEE(経食道心臓超音波検査)を(Sn 90%程度)。ただ、それでも症状が変化するならば繰り返すことが大事とされる。

 

とにかく心エコーと血液培養が大事な疾患!

感染性心内膜炎の診断:クライテリア

〜修正Duke診断基準(Clin Infect Dis. 2000 Apr;30(4):633-8)〜

【大基準】
  1. IEを裏付ける血液培養陽性
    Ⅰ.2回の血液培養でIEに典型的な以下の病原微生物のいずれかが認められた場合
    ・Streptococcus viridans/Streptococcus bovis/HACEK group/Staphylococcus aureus/Enterococcus(他に感染巣が無い状態)

    Ⅱ. 血液培養がIEに矛盾市内病原微生物で持続的に陽性
    ・12時間以上間隔をあけて採取した血培が2回以上陽性
    or 3回の血液培養のすべて、か、4回以上の血液培養の大半が陽性

    Ⅲ. Ⅰ回の血液培養でもCoxiella burnetiiが検出された場合 or 抗I相菌IgG抗体価800倍以上

  2. 心内膜障害所見
    Ⅰ. IEの心エコー図所見;人工弁置換術後・IE可能性例・弁輪部膿瘍合併例ではTEE推奨
    ・弁or周囲支持組織の上 or 逆流ジェット通路 or 人工物の上に見られる振動性の心臓内腫瘤(s.o疣贅)
    ・膿瘍
    ・人工弁の新たな部分的裂開

    Ⅱ. 新規の弁逆流(既存のものの悪化・変化のみでは十分ではない)

*まとめると、血培が生えるか心機能障害が新しくでるかどうかチェック。特に心臓術後やIE既往があれば積極的にTEE!*

 

【小基準】

  • 素因:素因となる心疾患or静注薬物常用(透析患者なども)
  • 発熱:38度以上
  • 血管現象:主要血管塞栓、敗血症性梗塞、感染性動脈瘤、頭蓋内出血、眼球結膜出血、Janeway発疹
  • 免疫学的現象:糸球体腎炎、Osler結節、Roth斑、リウマチ因子
  • 微生物学的所見:血液培養陽性であるが、上記の大基準を満たさない場合、またはIEとして矛盾のない活動性炎症の血清学的証拠

 

〜判定基準〜

【確診】
 病理学的基準
①培養、または疣腫、塞栓をおこした疣腫、心内膿瘍の組織検査により病原微生物が検出されること
②疣腫や心内膿瘍において組織学的に活動性心内膜炎が証明されること
 臨床的基準
①大基準2つ
②大基準1つ および 小基準3つ
③小基準5つ

【可能性】
①大基準1つ および 小基準1つ
②小基準3つ

【否定的】
①IE症状を説明する別の確実な診断
②IE症状が4日以内の抗菌薬投与により消退
③4日以内の抗菌薬投与後の手術時or剖検時に病理学的所見を認めない
④上記「可能性」基準に当てはまらない

画像診断基準:ESCガイドラインより

A.心エコー図所見
・疣贅
・膿瘍/仮性動脈瘤/心内瘻孔
・弁穿孔or弁瘤
・人工弁の新たな部分的裂開

B.置換人工弁周囲における16F-FDG PET/CT(術後3ヶ月以上経過している場合)や白血球シンチSPECT/CTの取り込み(*1)

C.CTによる弁周囲膿瘍の検出

 

*1;PET-CTでのIEの診断について。
徐々に進んできている所。人工弁での撮像が、疣贅がTTE/TEEでも見つからない場合に補助的診断になりうるとされている。ただ自然弁の患者ではまだ確立されてはいない(ただ感度が低いだけで、特異度は高い、とする報告も:The Role of 18F-Fluorodeoxyglucose Positron Emission Tomography/Computed Tomography in the Diagnosis of Left-sided Endocarditis: Native vs Prosthetic Valves Endocarditis.)
→ 人工弁は感度93%/特異度90%に対し、自然弁は感度22%/特異度100%

また日本での症例でPET-CTを使って診断した自然弁患者のケースも(Diagnostic performance of FDG-PET/CTA in native mitral valve endocarditis)

<診断のフローチャート:循環器学会ガイドライン2017年>

感染性心内膜炎の治療

【敗血症ではないので、原則治療を焦る必要はない!】
 → 慌てて抗菌薬を投与する前にしっかり診断すべき!(投与期間に強く影響が出る!)
自然弁の場合は90%以上は血培が陽性になるため、そこをターゲットにして良い。Empiricに始める場合はVCMになる。
手術は以下の時に考慮
  • 進行性の心不全合併
  • 再発性塞栓合併
  • 弁輪膿瘍+
  • 血液培養陰性化しない
  • MRSAや耐性腸球菌などで抗生剤での治療困難
    サイズが10mm以上の疣贅はOpeへ。中枢病変合併があればそれも出来るだけ早くOpeへ。

治療予後が悪くなる4つの因子

  1. 患者背景:高齢・人工弁感染・フレイル・既存疾患(DM、腎障害、肝障害、肺疾患、ステロイドなどの免疫抑制状態)
  2. 合併症:心不全・腎不全・脳塞栓症・脳出血・敗血症性ショック
  3. 原因菌:ブドウ球菌・多剤耐性菌・真菌・非HACEK群グラム陰性桿菌・抗菌薬後も炎症が持続
  4. 心エコー図所見:左心系の疣腫・弁輪部膿瘍・可動性を有する大きな疣腫・広範囲な弁破壊・低心機能・肺高血圧

〜コラム1 【血液培養陰性感染性心内膜炎】〜

IEの診断に不可欠な血液培養ですが、それが陰性になってしまう困ったケースも存在します。
主な理由は以下
①抗菌薬の先行投与
→ 検出率が35-40%に低下する。抗菌薬中止後、培養陽性化に7-10日程度かかるとされるが、短期間の投与ならば数日中止で陽性化する(J Antimicrob Chemother 2012; 67: 269–289.)

 

②培養困難な病原体
・遅育性細菌
・海外ではNVS/Trppheryma whipplei
・HACEK:ただ最近はほぼ5日以内に検出可能(Clin Infect Dis 2005;41:1677–80.)
・細胞内寄生菌
・Coxiella/Bartonella/Brucella/Mycoplasma/Legionella/Chlamydia
・その他
・真菌:Candida,Aspergillus
・抗酸菌:Tuberculosis/Nontuberculous
→ 延長培養の申し込みが必要(勤務施設によるが、通常は1週間で培養は終了してしまうことが多い)
病歴聴取がかなり大事になってくる!
  →海外では48%がCoxiella/28%がBartonellaなので、血液培養が陰性の時はこれらの抗体検査を出すことも

 

③非感染性疾患(約2.5%)
 ・SLE(Libman-Sack):重症例、APS合併例に多い(J Clin Pathol 2009;62:584–92.)
・Behcet病:1-2%に合併、若年男性に多いとされる(Medicine (Baltimore) 2012;91:25–34.)
・その他PNやGPAなどの血管炎でも起こすことがあり得る。
→ ここの鑑別はかなり難しい!(どちらかの治療を開始して、慎重に反応をみていくしかない
血液培養陰性の自己弁感染性心内膜炎をPET-CTで診断・治療効果判定したケースも【18F-FDG PET/CTが診断および治療効果判定に有用で あった血液培養陰性の自己弁感染性心内膜炎の1例】

〜コラム2 IEを否定するのも難しい〜

血管炎を疑っていた患者で炎症所見が出たり、疣贅が出たりすることもあるため、IEを除外するのは診断するよりもよっぽど難しい
VIRSTA score(J Infect. 2016 May;72(5):544-53.)
→ 2ptをカットオフとするとSn 95.8/NPV 98.8%に!(つまりTEE不要かも)
これにTTEの所見を組み合わせ、解剖学的異常・弁の狭窄・硬化・弁逆流や心嚢液貯留などがないことを確認すればIEを除外できる、かも。
以上、まさに感染性心内膜炎なのか、血管炎なのかで苦労している(治療法が真逆なので)masaでした。

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