*注意事項:本記事を読む前に目を通して下さい*
このページはあくまでmasaの勉強用の記録です。実臨床に用いる場合は自己責任でお願いします。記事作成中の情報ですのでご自身で最新の情報を確認した上でお願いします。
【レビュー:2015/Lancetを読んで】
「ポイント」
・急性虫垂炎のOpe前診断はむずかしい。全年齢の急性腹症で考える必要があるため。
・CTの使用により世界のCareは差があり、抗菌薬治療 or Opeの違いがある。
・臨床分類は単純性、複雑性(穿孔など)のタイプ分けでアプローチが変わり、Opeのタイミングや、保存的治療、術後抗菌薬の治療が変わってくる。
・診断・マネージメントの方法が確立されても穿孔の割合は変わらないが、非穿孔性の虫垂炎の割合は変化しており、両者の原因の違いが考慮されている。
・CTは術前診断には有用ではあるが、高いコストと被曝を患者に強いることになる。
・単純性虫垂炎については抗菌薬での保存的治療についても説明を受けるべきだが、1年で20-30%は失敗する。
・虫垂切除術はIBDとの関連があるとされ、免疫学的機序や腸内細菌叢への関与が示唆されている。
・腹腔鏡下手術と開腹手術では短期的な結果は改善するが、長期的にはどっちでもあまり変化はない。
「概論」
・生涯発症率は7-8%と言われている。10万人に90-100人の割合で年間発症。20-30代が多く、出生直後や高齢では稀(とはいえ経験するが)。男性がわずかに多い。人種の差はあり、生涯でSouth Koreaは16%、米国は9%、アフリカは1.8%。
「原因」
○管腔閉塞 → 多いのは糞石、リンパ過形成、便。稀なのは虫垂癌。
→ ただ原因がはっきりしない事も多い。感染性に起きてるのでは、という想定もされているが全体像は不透明。最近は遺伝・周辺環境・感染症に焦点が当たっている。
○家族歴 → 家族に虫垂炎の歴があるとない家族よりも3倍高くなると言われる(原因遺伝子は不明だが)。双子の研究では遺伝的な要素は30%程度、と報告されている(Br J Surg 2009; 96: 1336–40.)
☆家族歴を確認するのは大事。
○環境因子 → 夏が多くなる(大気汚染マーカーで使われるオゾン層の量の増加が関連しているかもと統計的には言われている。)また、時折時空間クラスターが生じるため感染症の要素があるかも、と言われている。そもそも妊婦では虫垂炎のリスクは低いが、生じてしまうと診断に難渋するグループになる。
○理由は分からないが、人種的な事では非白人ではより少ない発症率(UK/USAの報告)。少数民族で生じると穿孔のリスクが高いが、人種というよりは医療体制の問題。
○神経原性虫垂炎という概念があり、そこから痛みのメカニズムが現れてきている。
虫垂炎の微生物叢
○虫垂の正常細菌叢は分かっていない。切除された虫垂炎から生えてくるのは基本的には大腸菌とBacteroides属。小さい研究だが15種類にも渡す複数の菌が検出される。Fusobacteriumが検出されると穿孔などリスクが上がる(重症化する)可能性が示唆されている(Gut 2011; 60: 34–40.)
○虫垂切除が自己免疫に関与する根拠の一つとして、切除後にUCになるリスクが下がり、Crohn’s diseaseのリスクがわずかに増加するとされる(BMJ 2009; 338: b716.
/Gut 2007; 56: 1387–92.)。また、さらにいえば虫垂切除は腸管切除が必要になるほどのCD腸炎のリスクも上がると言われている(World J Gastrointest Surg 2013; 5: 233–38.)。
「分類」
○急性期の炎症の経過を行く末毎に分ける。
1.単純な炎症性虫垂炎で、壊疽・壊死はしておらず穿孔にも進まない。可逆性のある病態で、手術が必要な状態に進行するか、抗菌薬でコントロールできるかのどちらか。
2.もっとはやく炎症が進み、壊疽or穿孔orその両方まで進むタイプもある。臨床像や検査結果で分類する。
人口ベースの研究では1970-2004で男性では非穿孔性虫垂炎が減少し、女性ではさらに減少した。ただ穿孔性虫垂炎の割合は減少していない。
→ 非穿孔性 or 穿孔性の原因が違うことが示唆されているのか、画像診断の発達で単純性に分類されていた虫垂炎を別に疾患・概念に分類し直せているのかは分かっていない。
Macroscopic appearances
|
Microscopic appearances
|
Clinical relevance
|
||
正常虫垂炎:Normal appendix
|
Normal underlyning pathology
|
No visible changes
|
Absence of any abnormality
|
Consider other causes
|
Acute intraluminal inflammation
|
No visible changes
|
Luminal neutrophils only with no mucosal abnormality
|
Might be the cause of symptoms, but consider other causes
|
|
Acute mucosal/submucosal inflammation
|
No visible changes
|
Mucosal or submucosal neutrophils and/or ulceration
|
||
Simple,non perforated appendicitis(穿孔していない、炎症性)
|
Suppurative/phlegmonous
|
Congestion, colour changes, increased diameter, exudate, pus
|
Transmural inflammation, ulceration, or thrombosis, with or without extramural pus
|
Likely cause of symptoms
|
Complex appendicitis:壊疽性/穿孔/膿瘍
|
壊疽性
|
Friable appendix with purple, green, or black colour changes
|
Transmural inflammation with necrosis
|
Impending perforation
|
穿孔
|
Visible perforation
|
Perforation;
not always visible in microscope
|
Increased risk of postoperative complications
|
|
膿瘍
|
Mass found during examination or abscess seen on preoperative imaging; or abscess found at surgery
|
Transmural inflammation with pus with or without perforation
|
Increased risk of postoperative complications
|
「診断strategy」
1,虫垂炎の診断をする
2.虫垂炎の中で分類分けをする:Simple or Complex
→ ただ被曝による被害と、高精度の診断のバランスをとるストラテジーはまだ確立されていない。
「Biomarker」
病歴と臨床症状の補助的な役割に使われる。特に子供、妊娠可能な女性、高齢の方で診断が困難な時に。WBC、CRP、PCTだけでは感度・特異度は高く虫垂炎の診断を行うことはできない(Br J Surg 2013; 100: 322–29.)。
→ ビリルビンなども検討されてきたが、有用なマーカーとまでは至っていない。
それぞれ、すべての臨床所見単独では有用には使えないが、組み合わせで予測能力は高くなる:完璧ではないが。
○Clinical risk score
・Alvarado score:最も使われているのスコア。
→ (特に男性で)高い感度だが、特異度が低いため自分の臨床医としての意見を超えて利用することはない。
・AIR:Appendicitis inflammatory response scoreは発達し、Alvarado scoreよりも有用とされている。
○超音波検査
適度な感度・特異度(86%/81%)が14の研究から示されているため、診断能力はやや限られてしまう。
また施行者にもよる上、時間帯に制限を受けることもある。小児など筋肉が薄く、腹部の脂肪が少なく、被曝を避けたい患者へのFirst lineには有用。
○CT検査
米国では86%の患者で施行され、感度92.3%の結果だった。このアプローチでは正常虫垂が6%あるとされる。また、北米以外では小児や若年成人への被曝のリスク、病院の医療資源問題、読影者の欠如なども問題になる。
通常のCTとlow dose CTの比較では、 3.1% VS 3.5%の結果になった(正常虫垂に見えるのが)。ただ読影者が専門医、という条件はあるが。(N Engl J Med 2012;
366: 1596–605.)。
高齢患者では腫瘍のリスクがあがるため術前のCTは推奨される(粘液産生性腫瘍を除外するため)。フローチャートにのっとって、CTの被曝を正当化する必要がある。
○MRI検査
被曝を抑える、という点では若年患者に有用な可能性はあるが、急性腹症患者にあまり使われるに至っていない。1つめは即時アクセス出来る環境がないことが多いこと、2つめは超音波検査よりも虫垂炎に対する感度が低い、ということ(Br J Surg 2014;101: e147–55.)。
○若い女性での診断Strategy
→ まずは尿検査で子宮外妊娠を除外することと、経腟エコーでPIDを除外。診断がはっきりしない場合は婦人科オンコールに連絡し、さらなる付属器への検査も検討する。早期腹腔鏡が判断が悩ましい症例では診断の改善につながるという報告もある(Int J Surg 2008; 6: 400–03.)。複数の臨床研究から、早期の腹腔鏡下検査は経過観察よりも早期の退院を可能にする可能性もある(Br J Surg 1999; 86: 1383–86./.Ann Surg2006; 244: 881–86.).
○SimpleとComplexの違い
CTもMRIも穿孔・非穿孔は区別することが出来ないため、手術or保存的治療(抗生剤)での治療の選択が難しいことはある。
放射線画像で糞石が存在する場合抗菌薬で失敗する可能性は示唆される(J Gastrointest Surg 2010; 14: 309–14.)が、CRP>60g/LやWBC<12000、年齢≦60が抗菌薬で成功出来る可能性が示唆されている(J Gastrointest Surg 2014; 18: 961–67.)
「治療」
<Non operative management>
Simple inflamed appendicitis・・・最近は抗菌薬がuncomplicated appendicitisに推奨されているが、議論の余地もなし。抗菌薬と切除術を比較したRCTでは単独でも成功しうるが、患者は1年に25-30%の失敗(再入院or手術の必要性)について伝えられる必要あり(Table 2)