おはようございます。
今日は医師が教えるCommon disease=つまり皆さんがよく見る病気を解説するシリーズです。前回の「かぜ」に引き続いて本日は「胃腸炎」をテーマ(特に今日は腸炎)にお話ししていきます。
<前回の記事はこちら>
<「胃炎」について詳しくしりたい方はこちらをチェック!>
〜こんなことありませんか?〜あなたは「胃腸炎」ですね
さて、さっそくですが皆さん、こんな機会ないでしょうか。
なんだかご飯を食べた後から吐き気がする・・・。お腹が少し痛くなってきた・・・ お腹がゆるくて、水みたいな便が出てくる・・・。
少しずつ日を追うごとに良くはなってくるけど・・・。
自宅で療養を続けたものの、症状が続いており一度医療機関を受診した方がいいかと思って病院へ。
そして医者の診察を受け、言われる一言が
胃腸炎ですね・・・。整腸剤出しておきますね。
いかがでしょうか?自分でブログを書きながら、割と良くある状況ではないでしょうか。さて、ここで登場した「胃腸炎」。 一体どんなものか、みなさんは説明出来るでしょうか。
胃と腸に炎症が起きるものだろう
名前の通り、そう思われている方も多いのではないでしょうか。もちろん確かにその通りなのですが、ここで思考を止めずにもう少し立ち入ってみましょう。
実は「急性胃炎」 と 「急性腸炎」 は、全く異なる病気なんです。改めて言われて初めて気づいた方も多いと思いますが、全然違う病気なので注意してください。 (もちろん医療関係者でなければ知らなくても怒られることはありません)さらに言えば、食あたり、食中毒、とも少しちがいますよ。
では、これから解説していきます。
「胃腸炎」の一般論
そもそも「胃腸炎」と言われることが多いですが(私達もそう呼んでしまうことも多いですが)、細かく言えば「胃炎=胃に起きる炎症」と「腸炎=腸に起こる炎症」では原因が違うことが多いです。
もちろん同時多発的に起こる事が絶対にない、わけではありませんが、主に原因が違います。
胃炎の方は、非感染性(感染症ではないもの)、
腸炎は感染性のもの(イメージしやすい腸炎)が多いです。
実際の現場では 「胃腸炎かな・・・」という言葉は、「腹痛の原因がはっきりしない」+「程度としては危険なものではない」時に医療者がよく使う言葉という印象がmasaにはありますね。
この「原因がはっきりしない」+「程度はたいしたものではない」というフレーズ。どこかで聞いた事ありませんか?
少し極論かもしれませんが、
腹痛に対して「胃腸炎ですね」と言うのと、
のどいた・ねつ・はなみずに対して「かぜですね」というのは医療者にとっては似たようなもの、と思って下さい。
(よければこちらの記事もチェックしてみてください)
もし皆さんを診察してもらう先生が、
「腸炎ですね」や「胃炎ですね」
と分けて言われる医師の場合は、この両者をはっきり区別して診療をされているのだと思います。 もちろんこれだけで良い医者、悪い医者というわけではありませんが。さて、今日はは「胃腸炎」の中でも「腸炎」にfocusを当てて解説します。
「胃炎」はこちらの記事を確認してくださいね。
「胃腸炎」の中でも「腸炎」の症状・経過について
さて。先補と腸炎は感染性のものが原因になることが多い、とお話ししましたね。感染性、つまり、症状を起こすのは外から感染してきた微生物だという事です(もちろん他の原因もありますが今は置いといて)。
その原因となる微生物(ウイルスやら細菌やら)は人の体の中に入ってきてから直ぐに症状が起こされる訳では無く、細かい種類によって様々ですが(後で説明します)、約半日〜1週間後に症状がでてきます。「潜伏期」と呼ばれる、私達の体内で息を潜めて機会をうかがっている時間がある、という事です。
意外と遠い昔ですよね、一週間って。
そして更に皆さんご存じだと思うのですが、腸は腸でも人間の腸は長いです。そして部位によって役割が違います。比較的胃に近く、役割も胃に似ている「小腸」と、肛門に近く便として排泄する準備をしている「大腸」。じつは原因となる微生物がどこに悪さをしているかによって、患者さんが自覚する症状も変わってくるんです。
ざっくりとしたイメージでは、
「小腸」に原因がある人の場合は嘔気が強く、下痢は出にくいor発現のタイミングが遅いです。胃、つまり口に近いので異物は下から出すよりも上から出す方が早いために体が嘔吐を促しているんですね。
対して
「大腸」に原因がある人場合は下痢の頻度が多く、嘔吐の症状はでにくい事が多いです。こちらは逆で、下まで降りていってしまっているので上から出す事は難しいから下から下痢で出そうとしているという事です。
とはいえ、どちらが原因のメインになるにしても小腸〜大腸もつながっている臓器なので、患者さんは多かれ少なかれ両方ダメージを受けている方が多いです。なので結局「胃腸炎」、中でも「腸炎」かな、と思われる場合は次の様な経過をたどります。
「胃腸炎」の中でも「腸炎よりの方」の自然経過
*今日はここだけ覚えてもらえればOKです!*
①嘔気・嘔吐スタート
②徐々に腹痛(痛みの程度は強弱がある痛みで、たまに0になることも)出現
③24時間程度で症状のピークを迎える
④その後下痢(軟便、ではなく、完全に水みたいな便)が出現。
どうですか?
覚えられそうですか?
実際に自分が「腸炎」になったことがある方は
あ〜、確かに
となっているかもしれません。 上の経過を踏まえた上で、僕は腸炎らしさが強い方には、
腸炎だとしたら今日・明日がピークだと思います。そこから少しずつ良くなってきますよ
と伝えています。 そして、 何よりも大事なのが、上の「自然経過」を伝えた上で、その経過から大きくずれてくる場合は再度病院受診するように伝えています。
と、言うのが、実はこの「腸炎」。初期段回では盲腸、と呼ばれる「虫垂炎」という手術が必要になる場合がある病気との区別が初期段階では付かないことがあるんです。しかも年齢によってはお子さんでは痛みが言えないこともあり、苦労することが多いです。masaも「普通の腸炎と少し何か違うな・・・」と思った時は数日後に予約を取っておいた上で再診いただいて、症状のピークを越えていない場合は追加で検査を行っていきます。
なのでとにかく「普通と違う」ことを判定する為にも「自然経過」は超大事。この「自然経過」のところだけでもイメージを覚えて帰って下さいね。
*今日はここだけ覚えてもらえればOKです!(2回目)*
①嘔気・嘔吐スタート
②徐々に腹痛(痛みの程度は強弱がある痛みで、たまに0になることも)出現
③24時間程度で症状のピークを迎える
④その後下痢(軟便、ではなく、完全に水みたいな便)が出現。
「胃腸炎」の原因(今日は簡潔に)
少し詳しくなってきます。 原因、といっても食べ物ではなく微生物(ウイルスや細菌)の話がメインです。
ウイルスは基本的には「小腸」の上の方がメインになるので、嘔吐がメインです。
細菌は基本的には「大腸」がメインになるので下痢がメインになってきます。また、細菌の場合は便に血が混じったり、熱が出たりとウイルスが原因の時よりも重症になることが多いです。
つまり、細菌性の方がウイルス性よりも怖い・・・と覚えましょう。コロナウイルス流行下では変な話ですね。
また別の分け方として毒素型(熱がないパターン)と大腸型(熱があるパターン)といった分類もあります。 今回は少し難しくなるので割愛しますが、毒素型がいわゆる食中毒、と、思ってもらえばOKです。 基本的にその時は原因の食べ物を食べて24時間以内に症状がでてきます。 これなら原因の食べ物を忘れる可能性も低いですね。
たまにTVのニュースで出てくる、
「遠足にいった児童が・・・」 「原因はお弁当と思われ・・・」
とかがこれです。その名の通り「食中毒=毒素型の腸炎」ってことになります。
「胃腸炎」の予防方法
さて、ではここで問題です。
生の食材を食べていなければ、腸炎にはならない!
これは○でしょうか、×でしょうか。
どうですか? 答えを出しましたか?
さて、正解は、×です。
もちろん加熱処理は大事ですし、一時話題になった生レバーや鳥刺しで腸炎が起こりやすいのは事実です。(別に責めているわけじゃありません。僕は両方とも大好きです。)なので、焼き肉とかでもしっかり火を通して上げるのはとても大事。
ただ、先ほど話に出てきた「毒素型」、遠足の弁当パターンをイメージしてもらうとどうでしょうか。 調理済み、つまり・・・加熱してますよね?
簡単に説明すると、「毒素型」の場合は微生物から出た「毒素」を食べることによって症状がでてきます。 つまり、加熱して微生物を殺しても、すでに出ている「毒素」を殺すことは出来ず、症状がでてしまう、ということです。他にも微生物の中には加熱が効かない微生物もいたりするので、絶対ではないので注意しましょう。
また、これだけ話しておいてなんですが、原因の食材・微生物がはっきりしないことなんてざらです。半分くらいの患者さんは原因が分からず治っていきます。
・・・じゃあ予防なんて無理じゃないか!!
ごもっともです。 ただ、やっぱり生の食材のリスクが高いのは事実です。 注意しましょう。また、ご家族でいわゆる「腸炎」の「自然経過」をたどっている方がいる場合は、手洗い・うがいを特にしましょう。
そして、家族に腸炎の患者さんが居る中で自分に症状がでてきた場合は「自分が感染源になる可能性がある」と意識してください。これだけでもかなり感染の拡大が防げます。外来をしていると一家丸ごと受診される例もざらですよ。
「胃腸炎ですね」と言われた時に注意して欲しいこと
ここまでは「胃腸炎」とはなにか、その中でも「腸炎」とはなにかについて話をしてきましたが、では病院を受診した時に予想通り
胃腸炎ですね
と言われた時に注意して欲しいことを紹介していきますね。ここまでの記事の内容で触れている内容も出てきます。
「自然経過」と大きく違う経過をたどる
→ こちらは前述した通りですね。他の病気の可能性があるので注意してください!
これ以上広めない!
→ 手洗いはしっかりと!COVID-19流行下だけでなく、胃腸炎を考えた時には特に大切です。家族内感染も防ぎましょう。
発熱があるか、血便があるかどうか!
→今までの説明でおわかりだと思います。
発熱や血便があると、細菌性、つまり、重症になる可能性があります。
もちろん軽症のまま収まる方がほとんどです。ただ一つの判断材料にはなるため、医療者に伝えて下さい。特に血便については便の色をあまり注意していない方が多いので、トイレットペーパーに付着した色でも構わないので、赤色が出ていなかったかどうか、伝えてもらえたら、と思います。
下痢は止めない!
→ 先ほど出てきた様に体の中にすでに入ってしまった「毒素」や「微生物」が原因です。
そこを下痢がつらい、気持ち悪いからといって下痢止めを飲むとどうなるでしょうか。
・・・そうですね、悪化します。
むしろ下痢は体の防衛反応みたいな物で、原因を体の外へ出そうと頑張っているんです。本来は歓迎すべき症状なんですね。それを薬で止めると、むしろ症状が長続きしてしまうので、注意しましょう。
ピークの時に、無理に飲み食いをしない(水やおかゆなどであっても)
→ 胃腸炎の患者さんの中で、とにかく一番怖いのは脱水です。乳児や高齢者で起きるとそれこそ入院治療が必要になってきます。そのため、発症直後、つまり嘔吐がメインの時に水だけでも、と頑張って飲水をしてくださる患者さんも居ます。そう・・・大変ありがたいですし、脱水が怖いのは本当です。
ただ、嘔気がつらい時に、過剰に飲水すると嘔吐を引き起こしてしまいます。高齢の方ではそれこそ誤嚥による肺炎を起こしてしまう方もいますね。なので乳児・高齢者以外であれば基本的に大人であれば、数時間飲水出来ずとも、脱水にはなかなかなりませんから。なので思い切って
吐き気が辛いときは数時間飲み食いしないでおきましょう。
もし口が乾いて、という場合はペットボトルのキャップ、もしくは小さじのスプーン1杯程度本当に少量ずつ、飲水をする様にしてください。
これを聞くと、
いや、それは少なすぎるでしょ・・・
と思われるでしょう。
大丈夫です。
逆に、この飲み方を始めて少し様子を見ても嘔吐が出ない、ということであれば少しずつ飲む量を増やしていって下さい。
「胃腸炎」かも、と思った時に医療者に伝えて欲しいこと
さて、ここまでいろいろ話をしてきましたが、いざ病院を受診するときに伝えて欲しいことを簡単にここからお話ししていきますね。
「食歴」
生卵
鶏肉、豚肉、牛肉
魚介類
旅行時の出店などの摂取、水の摂取など
*注意としては可能な限り1週間ほど振り返って教えてもらえるととても助かります。
そんなの無理だよ。昨日の夜の事もおぼえてないのに!!
そんな声が聞こえてくるかの様ですが、大丈夫です。僕もそうです。
ただこれで終わるとよろしくないので記憶を思い出すアドバイスとしては、【BBQをした】などと言う食事のイベントで思い出すとどうでしょうか。「焼き肉」「BBQ」「外食」など。私達もあの手この手で質問していきますが、とにかく「肉を焼いて食べる」イベントが無かったか、「生の物が口に入るイベント」が無かったかに絞って記憶を思い出してください。
「旅行歴」
今はなかなか旅行を言いづらい世の中ですが、COVID-19関係だけでなく、国内や海外旅行に行かれている場合は医者にそっと教えて下さい。なぜそんなことを気にする必要があるかと言えば、そういう方の場合は日本だけでなく海外の微生物も考える必要がでてくるからです。
あとは、過去に何かしらの病気をお持ちの場合はそれについても教えて下さい。 特に腹部の手術歴や、同様に下痢を繰り返している場合はその頻度も教えて下さい。「腸炎」ではなく、他の病気が隠れている可能性がありますから
後書き
長くなってしまいましたね。
最後まで読んでくれた方、お疲れ様です。 僕もつかれました・・・
とにかく今日は、<自然経過>だけでも覚えて帰って下さいね。
*今日はここだけ覚えてもらえればOKです!(3回目)*
①嘔気・嘔吐スタート
②徐々に腹痛(痛みの程度は強弱がある痛みで、たまに0になることも)出現
③24時間程度で症状のピークを迎える
④その後下痢(軟便、ではなく、完全に水みたいな便)が出現。
今回は、検査・治療法については割愛しています。
希望があればコメントまで。
<「胃炎」についてはこちらの記事をチェック>
では、また明日。
2019/04/25 masa(2021/4/27 更新)
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